オールドボーイ、ヨットレース参戦記
千葉喜英
 
 65歳にならんとする、おじい二人と、魅力的な女性、プロと呼ばれてもおかしくない2−3人の比較的若い男。どこかで見た組合わせと思えば、コリント イーストウッド監督主演、スペースカウボーイでした。イーストウッドの監督主演映画はこの手の設定が多く、アイガーに始まり、グレナダ戦争を舞台、除隊前の万年軍曹のお話、ハートブレイクリッジ、そしてスペースカウボーイ。いずれも、リタイア間際か、世の中から忘れられた、かつてはがんばった事があるおじいが、再びがんばって、何とか勝利を得るお話です。
 2011年志摩ヨットハーバークラブレース、最初からスペースカウボーイをしようと参加を始めた訳ではありません。せっかくクラブレースがあるのだから、みんなもっと参加すれば良いのに、が理由です.
 そこで、2011年1月のクラブレース、折からの強風、ほんとうに出るのとスギさん、ケビンを乗せた方が良いよ、おそらくスギさんの差し金、岡君が、僕乗ります。おじいがミツキを乗せて嵐の海へ出るのを、皆様心配していただきました。もちろん私ではなくミツキを心配しての事でした。幸いレース委員長のご判断でノーレース。パーティーだけのデビュー戦でした。口には出しませんが、みんなが思っていた事、このじじい大丈夫かい。
 スギさん、ケビン、喜多さん、龍君たちが、かわるがわるクルーを勤めてくれるようになります。

 そして、ビーナスチームの強力メンバー名取が参加してくれました。彼は、わたしとほぼ同じ年、やはりもうじき65歳のじじいです。産婦人科の中でも、ともに医用電子を専攻し、二人のかつてのボスは強烈なライバルでした。しかもそのボスは二人とも40歳代で死んでしまい、名取も私も若くして研究室を背負うはめになりました。そして、もともとは、湘南ボーイの慶応ヨット部、根っからのヨットマンです。何回かディンギーで腕を競いましたが、いやーうまいです。クルージングの時、普通はコンパスにコースを合わせますが、彼は常に風にコースを合わせています。風が回っていくと船も回ります。オーイ名取、どこへ行くの、あっちなのですけど、よく声をかけます。
 名取のヘルムのうまさが最も発揮されたのは、6月のポイントレース。朝から微風、もしくは無風です。スタートラインにスタボー艇が並びます。周りを見渡した彼、タックしたいのですけど、いいですか。タック、重なってもたもたしている僚艇を尻目に、ビーナスJ24だけが、スーと離れて行きました。さざれ浦前で、再び無風、100mほど後ろで僚艇があっち向いたりこっち向いたりしています。ビーナスは船首を楓ブイにむけたまま、微動だにしません。その時、コミッティーがコース短縮を告げに来ました。ゴールは楓ブイ。ほほにかすかな風を感じました。すかさず、ビーナスJ24は風をとらえます。またまた先行、AZREとカスミも風をとらえて迫ってきますが、もう間に合いません。ビーナスJ24、ファーストホーム、優勝でした。
 さて、ポイントレース後半戦7月着順こそ6位ですが、着順1位との差343秒、修正1位、このときはミツキとダブルハンドです。8月着順3位で修正1位、このときはもう一隻J24が出てこちらは2位、108秒リードです。
 このあと、ロングレースが控えます。J24では、湾外で吹かれたとき、少し不安ですので、9月エメラルドカップはVOC7世を使う事にしました。昔昔、よくハーバーに来ていた女の子、今は北新地のママ、雅子さんも参加。そこそこの走りでしたが、レイティングが大きいので修正4位。以後、ロングもJ24を使おうと決めました。しかし、最後の11月は大島回航です。午前3時スタート。クラブ艇のJ24で夜間航海用の船検を取っている船がありません。悩みが持ちこされました。10月エメラルドカップ、カスミがダントツ1位に続いてJ24で修正2位、この時点で、累計ポイント85で1位です。2位カスミとの差6ポイントです。11月の大島回航ロングレースに勝負が預けられます。
 さて11月、前日から突風が吹いています。熊野灘の波予報5m。大型艇からは、明日は穏やかになるでー、今夜まで、今夜まで、と牽制が飛び交いました。早起きに備えて寝ようとしていた時、レース委員長より、夜半のスタートは延期、朝になり湾内2周にコース変更が告げられました。
 ビーナスチームにとっては超ラッキー、乗艇をJ24に決定します。このときは、春日井パパも応援乗船してくれました。強風のレース、オアシスが、自らの宣言どおりファーストホーム優勝です。ビーナスJ24は修正2位でした。
 累計ポイント101、準優勝AZUREとはポイント差10で、ビーナスチーム年間優勝決定です。
 ここにレースに参加していただいた、全クルーの名前を記して栄光をともにいたします。ありがとうございました。
 名取道也、光木知佳子、Kevin Blay、杉原信行、春日井清雄、春日井龍一郎、喜多正治、中井雅子、大西周、千葉喜英